エドワード・カークが広島に帰ってきた。10月末に行われた中国電力レッドレグリオンズの合宿に初日から参加。チーム合流直後でもキレのある動きでコンディションの良さを見せていた。共同キャプテンの西川太郎は、「みんなの見本なので練習が引き締まる」と歓迎。チームもさらに活気づいてきた。
カークは昨季終了後の5月にオーストラリアへ一時帰国。母国で約半年間を過ごしたが、のんびりと休暇を楽しんでいたわけではない。友人が運営するボクシングジムで週4日のワークアウトを行い、地元チームのクイーンズランド・レッズでトレーニングに励んだ。さらに、将来のためにレッズや地元の学校でコーチとして活動し、ラグビーの解説の仕事もこなしていたという。
「(オーストラリアには)土曜日に帰国して、月曜日には仕事を始めた。だから休みは1日だけ。毎日、仕事をして、家族との時間を楽しんで、トレーニングもした。すごく忙しかったけど、楽しい時間を過ごせたよ」
一時帰国中にうれしいニュースもあった。10月に第3子の男の子が誕生。カークは「最高の気分だよ」と満面の笑顔で話す。「妻にとってはとても大変なことだけど、本当によくやってくれた。彼女は本当に素晴らしい。子供たちのことも愛しているし、家族みんなが健康でいてくれることがすべてだ」
ただ、第3子誕生後すぐに日本へ旅立つことになり、「家族と離れるのはいつだってつらいよ」と父親の顔を見せる。
「家族に会って、ハグをして、父親の生活に戻れるから、家に帰るのはいつも楽しみなんだ。でも、ここ2、3年はコロナウイルスのことがあったし、僕が家を離れるときはいつも子供たちが動揺するからとてもつらい。彼らは僕を支えてくれる存在だから、離れるのはいつも寂しいよ」
それでも、広島に戻れば、一緒に戦うチームメイトがいる。家族と離れて暮らす難しさは当然あるが、チーム唯一のプロ選手としての自覚がカークを突き動かす。
「もちろん家族が恋しくなる。でも、同時に飛行機の中で『広島に戻るからには自分の仕事をしないといけない』と気持ちを切り替えるのが得意なんだ。ここでコンディションを整えて、いいプレーをして、チームにいい影響を与えて、みんなをサポートしなければいけない。僕は自分の仕事をするためにここにいる。だからこそ、すぐに父親からプロ選手へと切り替えられるんだ」
母国でしっかりと充電して帰ってきたカーク。広島3年目のシーズンに向けて、戦うスイッチが入った。
取材・文・写真=湊昂大
https://note.com/kotaminato/n/nb68a5e68dee5
2023.10.25 @中国電力坂グラウンド
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中国電力レッドレグリオンズ(中国RR)の坪井秀龍は、昨季限りで現役を引退した。
「もう体が限界だったし、しんどかった。自分の全盛期を過ぎていたし、チームに迷惑かけるのも嫌だったので」。長年、スクラムの強さを武器に体を張って戦ってきたが、引退を決断したいま、プレーすることに未練はない。「やり切りました」。清々しい表情でそう言い切った。
坪井は兄の影響でラグビーを始めた。子供のころから「走るのが嫌い」だったが、それでもラグビーは唯一続いたスポーツだった。
「魅力はバチバチにいけるところじゃないですかね。生身でぶつかり合うし、いろんな体型のやつが活躍できるのは、他のスポーツにはなかなかない。自分なんて特に運動神経がいいわけでもなく、すごいところもないけど、体を張って生き残ってきた。そういうのができる可能性があるところに魅力を感じていた」
20年以上のキャリアの中で、思い出の一つが日本代表だ。エディー・ジョーンズが監督に就任した2012年に初めて選出された。これは中国電力のラグビー史でも初の快挙だった。本人は当時の日本代表コーチとの縁や主力選手の負傷などで「運が良かった」と言いうが、それでも通算2キャップを獲得した。「感慨深かったですね。日本代表になれるのはなかなかない。日本を背負うっていいなと思いました」
坪井は初めて参加した日本代表の活動を、「めちゃくちゃ練習がきつかった。エディーさんが監督になった年で、もう走ってしかいなかった」と苦笑いで振り返る。そんな中で印象に残ったのは、日本代表選手たちの意識の高さだ。
「みんなストイックでしたね。プロ意識がすごい。プロでやってる人だけじゃなかったし、普通にサラリーマンしながらやっている人もいたけど意識は高かった。その当時の中国電力のチームと比べたらレベルは全然違うし、意識の違いがすごかった。体格とかは意外と変わらなかったりもしたけど、取り組む姿勢が違ったし、すごく考えてプレーしているなと思いました」
日本を背負って戦う選手たちの姿勢に、坪井も刺激を受けないわけがなかった。「日本代表から戻ったあとは、めっちゃ動きが良かった。意識が違いましたね。その時の自分は、立ち上がるのがめっちゃ早かった。いつもは遅いけど」と笑いながら回想する。人を変えるのは「意識」なのだ。
坪井は引退後、中国RRのFWコーチに就任し、武器としてきたスクラムの強化を主に担当している。チームの課題でもあるスクラムの指導をする上で大事にしていることは、「意識付け」だ。新シーズンに向けて、少しずつだが、確かな手応えも得ている。
「意識することを明確にして、それに向かって鍛錬している感じ。スクラムはすぐに良くなるもんではないけど、意識を変えるだけで選手たちはもうだいぶ変わってきた。いまはまだあまり試合をしていないけど、意識や取り組み方が変わるだけで、試合でのスクラムに対する気持ちや立ち向かう感じが全然違う。だから、それだけでも成長していってると思う」
長いキャリアで培ってきた経験をコーチとして後輩に注入する日々。坪井の第2のラグビー人生が始まった。
【取材 ミナトコウタ】
中国電力レッドレグリオンズは、HINODE&SONS株式会社様とパートナー契約を締結いたしましたのでお知らせいたします。 HINODE&SONS株式会社様と中国電力レッドレグリオンズは、お互いの価値を高め合いながら、ラグビーの持つ力を通じて社会変革をリードできるよう取り組んでまいります。
https://hinode-and-sons.com/
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今シーズン2勝に留まり思うような結果が得られず、非常に悔しくに思っています。
12月からリーグが開幕し、とても長いシーズンとなりましたが、苦しい時期にも皆様からの応援・ 励ましが私を含め、選手全員の励みになったことは言うまでもありません。本当にありがとうございました。チームを代表してお礼申し上げます。
総括としては、「思い通りにはならなかったが、やった通りにはなった」シーズンだったと思っています。 毎日の積み重ねの大切さをチーム一同痛感しているところです。
皆様から更に応援いただけるようなチームになるべく、今シーズンの反省を胸にチームも成長し続けていく所存です。引き続き、熱いご声援をよろしくお願いいたします。
前節の序盤、ミスをした味方に森田政彰が近寄って冗談っぽく声をかける。「次の挽回が楽しみやな!」。ミスを指摘するわけでもなく、ありきたりな言葉でないのが、森田らしい。
「もし自分がミスしたら、『次に行こう』って言われても逆にプレッシャーになる。ミスを試合中に責めても良くないし、ネガティブになればなるほどプレーは悪くなっていくと思うので、気が紛れるように、ちょっと笑わせるぐらいのイメージで声を掛けました」
もともと話し好きの森田はコミュニケーションを取るのがうまく、中国電力レッドレグリオンズのムードメーカーの一人。今季は開幕からほとんどの試合に先発出場し、グラウンド内外でチームに欠かせない存在だ。
ただ、今季一度だけメンバー外を経験した。前々節の九州電力キューデンヴォルテクス戦、岩戸博和ヘッドコーチからは「休養」と説明されたが、本人は「パフォーマンスが悪かった」と捉えて危機感を持っていた。
それでも、前節のNTTドコモレッドハリケーンズ大阪戦で2試合ぶりに先発復帰。試合は無得点で敗れて悔しさを味わったが、奮起していたタックルや突破では手ごたえを感じていた。今節のマツダスカイアクティブズ広島(以下、SA広島)とのダービーマッチも引き続きスタメン入りし、「選ばれたからにはアグレッシブに攻めたい」と気合いを入れる。
広島ダービーは今季3度目。開幕戦は快勝したが、先月の第2戦では8点差で敗れた。決着を付ける第3戦は、NTTジャパンラグビー リーグワン2022-23入替戦への可能性を残す両チームにとって勝ち点5、つまり3トライ差での勝利が必要となる。広島のプライドと入替戦が懸かった激戦必至の大一番。当然ながら、普段以上に気持ちが勝負を左右する。
「とりあえず攻めて、攻めて、攻めまくって、相手の時間になったらとにかくタックルに行ってすぐに(ボールを)取り返したい。怖いとか、しんどいとか、きついとか、そんなことを言っている暇は絶対にない」
166cm・84kgの森田はセンターとしてかなり小柄だ。前回の広島ダービーでは「僕が狙われていた感じがあった」と振り返る。今回のSA広島はセンターに174cm・92kgのジェイコブ・アベルと185cm・110kgのテビタ・タイというパワフルな二人をそろえてきた。
体格差はあるが、「相手が強ければ強いほど、大きければ大きいほど、『小さい相手に負けたって思わせてやる』という気持ちでやっている」と闘志を燃やし、「逆に相手が狙ってくるところを、失敗だったなって思わせるぐらいのタックルやアタックを見せたい」と意気込んでいる。
シーズン終盤の大一番。森田が気持ちの入ったプレーでも、コミュニケーションでもチームを盛り上げる。「グラウンドで一番目立つ選手になりたい」。小さなセンターがグラウンドの真ん中で大きな存在感を放つ。
(湊昂大)
晴空のもと、強風が吹き荒れたBalcom BMW Stadium。中国電力レッドレグリオンズ(以下、中国RR)はホストゲームでNTTドコモレッドハリケーンズ大阪(以下、RH大阪)を迎えて0対31で敗れた。
勝利したRH大阪は1試合を残してディビジョン3優勝とディビジョン2昇格が決定。広島に駆け付けたファンとともに栄光の瞬間を分かち合った。キャプテンの杉下暢は優勝までの戦いを振り返り、「一戦一戦、チームとして成長していくことができた」と胸を張る。
「自分たちの課題をしっかり見つめ直し、その課題を克服するためにコーチと選手が一緒に考えてクリアしてきたので、そういった『毎週よくなろう』というマインドセットが優勝という結果につながりました」
RH大阪はチーム再編成を経てディビジョン3から再スタートとなったが、『前回よりもいい試合をしよう』という『Better than before』の精神で前に進んできた。今節は強風や相手のエナジーを受けて「難しい試合だった」とマット・コベイン ヘッドコーチが振り返ったが、これまで積み上げてきた自信を表すような完封勝ちで優勝を成し遂げた。
対する中国RRも、今季最後のホストゲームで敗れたものの、課題に立ち向かう姿勢を見せた。今節、岩戸博和ヘッドコーチが掲げたのは「ラグビーの原点」と表した「前進」。ここ数試合は相手の勢いに対して受け身になっていたが、攻守において前に向かって戦うことにフォーカスした。
特にディフェンスでは立ち上がりから中国RRらしさを発揮。首位チーム相手でも受け身にならず、気持ちの入った泥臭いプレーで力強い試合の入りを見せた。岩戸ヘッドコーチも「ディフェンスのタックルの部分では前に出て止めていたシーンはいくつかあったので、フォーカスしてきた部分を選手たちが体現してくれた。そこは評価していますし、選手のことを誇りに思います」と話す。
ディフェンスでは手ごたえを得たが、アタックは相手の堅いディフェンスに阻まれて無得点に終わり、岩戸ヘッドコーチは「得点できなかったのが一番の反省点」と悔やんだ。それでも、また課題に向き合って次の試合に臨んでいく。その姿勢がチームを少しでも先に進める。グラウンド上でも、チームの成長でも、大切なのは前に進もうとする意思だ。
シーズンは終盤戦だが、どちらのチームも前進を止めない。RH大阪は次節、ホストで今季最終戦を戦う。杉下は「シンプルに今季のベストゲームをします」と最後まで気を抜くことはない。入替戦の可能性をわずかに残している中国RRは重要な2試合が残っている。共同キャプテンの西川太郎は「二つとも勝ちに行って、もっと成長していきたい」と意気込む。前に進もうとする意思、それがラグビーを面白くする。
(湊昂大)
グラウンドをあとにすると、悔し涙が流れた。2月12日のNTTドコモレッドハリケーンズ大阪(以下、RH大阪)とのビジターゲーム。中国電力レッドレグリオンズ(以下、中国RR)の大木寿之は今季初先発だったが、意気込んでいたスクラムで相手の圧力に屈し、交代後にベンチで泣いた。 「あの試合はひさびさの先発だったし、セットピースを期待されて出してもらったけど、そこでRH大阪にやられてしまった。本当に悔しかった。ラグビー人生で初めてですね、ベンチに戻って涙が出たのは」 そう話していると、先輩の河口駿と塚本奨平が近づいてきた。河口がすかさず「涙が出たというか、声を出して泣いていたよ」と満面の笑みでつっこむ。苦笑いの後輩は、「ベンチで泣いていたら、たまたまイヤな先輩がいました(笑)」と言い返したが、先輩からのイジりにうれしそうだ。 大木のラグビー人生は、頼れる背中を見て歩んできた。男4人兄弟の末っ子で、兄の影響でラグビーを始め、國學院大學栃木高校から帝京大学へと同じ道を進んだ。大学では特に1歳上の河口と塚本にかわいがってもらい、いまでも「悩んだらまず相談する」と、信頼を寄せる存在だ。卒業後に広島でラグビーを続けたのも、この二人がいたからだった。
中国RRでも帝京大学出身の選手が多く、末っ子気質は健在。昨季までは3つ上の先輩である松永浩平がキャプテンとしてチームをけん引していたため「今まではどうしても引っ張ってもらう感じで、付いていくだけだった」。 だが、大木も今年で29歳。後輩も増え、今季からはキャプテンも年下の二人に代わった。これまで先輩の背中を見てきたが、「後輩をサポートしたいし、一緒になってチームを盛り上げていきたい」と自覚も高まってきた。 さらに、小さなファンの大きな応援が背中を押してくれている。関東に住む甥っ子3兄弟がラグビーをしていて、特に小学3年生の末っ子は中国RRの試合を欠かさず見ているという。 「甥っ子たちがラグビーにハマっていて、本当にかわいいんですよ。それが今季一番の頑張れる源ですね。僕がタックルしたら喜んでくれるし、僕のタックルの回数を数えているぐらい。だから試合中にタックルを外せないし、変な試合はできないですね」 今季は今まで以上に責任感が強くなった。
前回のRH大阪戦後の涙がその証だ。「自分の力を発揮できなかったし、コーチたちの期待に応えられなかった。甥っ子たちも見ていたので、今季一番悔しい試合でした」。 今節の相手は、そのRH大阪。今季最後のホストゲームで大木はリザーブに入った。前回の悔しさは忘れられない。それでも、試合に出れば、強敵相手にまた果敢に立ち向かう。「しっかり体を張って、泥臭いプレーを見せたい」。グラウンドに入ると、熱く戦う背中を見せる。 (湊昂大)