青木智成がフィールドに戻ってきた。長い負傷離脱を経て初めての試合。緊張しないわけがない。そんなときに同期が声を掛ける。「楽しんでいこう!」。
3月4日の九州電力キューデンヴォルテクス戦、腰のケガで離脱していた青木が11カ月ぶりに復帰を果たした。同期の松田進太郎、平山真也、藤井健太郎の3人は先発出場していたため、これで1年目の4人全員が初めて同じフィールドで戦った。
普段から仲のいい同期4人。最初にデビューしたのは青木だった。昨年4月1日に加入し、2日後の試合にはスタメン出場していた。先を越された3人は悔しい思いをしたが、「今度は俺たちの番だ」と奮い立った。
だが、青木は昨季3試合の出場を最後に腰の手術を受けて長期離脱を余儀なくされた。その間に今季が始まり、松田、平山、藤井の3人は開幕からスタメンで試合に出続けた。負傷者続出の厳しいチーム状況を3人が安定した活躍でカバーし、岩戸博和ヘッドコーチも「必要不可欠」と言う存在になった。
今度は離脱中の青木が「ラグビーをやりたいけど、できない悔しさを感じていた」。でも、つらいときに刺激をくれる仲間がいた。「同期が頑張っていて、ずっと『4人で出たいね』と言ってくれてモチベーションになった」
けがを乗り越えた青木は九州KV戦で控えに入った。「まだメンバー発表すらされていない1週間前ぐらいからずっと緊張していました」。11カ月ぶりの試合で出番は開始6分に味方の負傷交代によって急きょ訪れた。フィールドに入ると、すぐに同期から声がかかる。
「僕が緊張しないように、引っ張ってくれるような言葉を掛けてくれて気持ちもラクになった。試合も楽しくプレーができました」
平山は「青木は結構緊張しいだから」と仲間を想う。「ラグビーでは青木を含めて同期4人全員が熱くプレーできるタイプ。鼓舞してやれば、青木のいい部分が出せると思ったし、しっかり気持ちを上げてほしいと思って声をかけました」。
同期4人で一緒に試合に出るという目標は達成した。平山と藤井はフル出場し、松田も後半37分までプレー。しかし、肝心の試合は19対50で敗れた。強敵相手に一時3点差まで追い上げたが、最後は突き放されて3連敗を喫した。
4人の視線はもう次の目標に向いている。青木は「4人全員が80分出続けて、最後は勝って終わりたい」と話し、平山も「4人の存在感を高めて、勝利に持っていけるように頑張っていきたい」と意気込む。
中国電力レッドレグリオンズの未来は、2022年加入の同期4人が引っ張っていく。
(湊昂大)
「試合の写真を見返すと、だいたいあいつが写っているんですよ」。広報の中村興平さんがそう話しながら視線を向けるのは松田進太郎だ。
昨年4月に中国電力レッドレグリオンズ(以下、中国RR)に加入した23歳のフランカーは、豊富な運動量を武器にスタメンで出場を続けている。試合中のいろいろな写真に写っているのも、持ち前のハードワークでさまざまな局面に絡んでいる証だ。
そのプレースタイルのきっかけは、高校時代のフォワード転向だった。ラグビー強豪校の京都成章高校に入ったが、バックスとしては上から4番のDチームで控え止まり。限界を感じて高校1年生の夏にフォワードに転向。すると、すぐにBチームまで昇格したという。
「パスを出すより、体をガツガツ当てたりするほうが自分に合っているなと思って、そこから、ひたむきなプレースタイルになっていきました。逆に派手なプレーができないから、泥臭くしかできないんですよ」
そこからは文字通りの汗かき役となった。「僕は汗っかきなので、試合後はびしゃびしゃになる。大学時代には1試合で体重が3〜4kg減るぐらいで、次の日はご飯を5合ぐらい食べていましたね(笑)」。
豊富な運動量があるとはいえ、当然ながらフィールドで疲労を感じることもある。それでも、「負けたくない」という素直な気持ちがいつも松田を突き動かす。
「勝ちたい気持ちが一番。自分が相手に追いつけなかったせいで負けたくはないから。あとで考えたときに後悔しないように、しっかりやり切ろうと思っています」
中国RR加入からもうすぐ1年。仕事とラグビーを両立するハードな日々だが、それも引退後のセカンドキャリアを見据えて自ら選んだ道だった。
「いまは定時まで仕事をしてから練習しているけど、ラグビーを辞めたあともずっと仕事は続いていく。それを考えたら、仕事をしながらラグビーをやったほうが絶対いい。辞めたあとに仕事ができなくて年下にいろいろ言われるのもイヤだし(笑)。両立はしんどいけど、いま、やっておかないといけないと思ったので」
松田にとってハードワークは生き様だ。「ラグビーも仕事も100%でやりたい」。
(湊昂大)
試合情報などはこちら⇒https://rrrfc.red/
開幕から全7試合にフル出場中。体を張ったプレーでチームを引っ張り、フィールドで頼れる存在感を放つ。「ひさしぶりに思う存分、試合に出られてうれしい」。今季、32歳の松永浩平に充実感が漂う。
この数年はけがに悩まされてきた。昨季も2度の肉離れにより、キャプテンながら出場できたのは5試合だけ。そこから今季はトレーニングを見直し、けがなくシーズンを戦える体作りに励んできた。
「肉離れを防ぐために、新谷(健一)S&C(ストレングス&コンディショニング)コーチらと相談しながらトレーニングをして、体重も減らしました。シーズン中もできるだけ全体練習にプラスでトレーニングをして、なるべく強度を下げないようにしています」
26歳のときからキャプテンとして中国電力レッドレグリオンズをけん引してきたが、今季からはその役割を若手二人に託した。6年間背負ってきた重責から解放されたことも大きい。
「キャプテンのときはチームのことを一番に考えていたけど、いまは自分のパフォーマンスでどうチームに貢献するかを考えている。自分にベクトルを向けられるので、気持ち的にはラクですね」
心身ともに充実している松永は、22年に加入した松田進太郎とフランカーの"松松コンビ"でコンスタントに安定したパフォーマンスを発揮。今季のスローガンでもある「成長」のためにも、松永は9歳年下の後輩を誘って自主練習に取り組んできた。
「僕から誘っていて、彼から『やろう』って言われたことはないです(笑)。でも、僕が練習したいのもあるし、バックローのレベルを上げたいのもあるので。ちょっとでも教えることがあればいいなと思ってやっています」
松田はそんな先輩のことを「一番ヤバい人です(笑)」と言う。「試合の走行距離で僕よりちょっと走れなかっただけで、『負けた』って悔しそうにしている。ほぼ10歳上でもそんなにずっと高いモチベーションでやり続けられるのがすごい。だからずっと試合に出られていると思います」
松永本人も「ベテランでもまだ成長したいし、常にうまくなりたいと思っている」と衰えない向上心を持つ。その根底にあるのは、「負けず嫌い」だ。
「モチベーションはこのチームに入ってから全然変わっていない。シンプルに負けたくないから。味方にも、目の前の敵にも、自分にも負けたくない」
今節はマツダスカイアクティブズ広島とのダービーマッチ。松永にとって生まれ育った広島は「大事にしたい場所」。そんな地元でのプライドを懸けた試合も負けたくない。充実のシーズンを送る元キャプテン、その心は闘争心に満ちている。
(湊昂大)
試合情報などはこちら⇒https://rrrfc.red/
今節の九州電力キューデンヴォルテクス(以下、九州KV)戦のスタメンに東川寛史が名を連ねた。度重なるけがで復帰と離脱を繰り返し、これが今季初出場となる。約1年ぶりの試合で、いきなり先発出場。不安がないと言えば、嘘になる。
「練習と違って試合の感覚は独特で、外から見ていても感じられないところがある。試合は外からだと一連の流れで見られるけど、試合の中に入ると一人称になる。『ボールを持ったら自分の世界』という感覚。それは練習では感じられないこと」
これまで東川というラガーマンの世界を作った人物が4人いる。まずは、九州電力のラグビー部にいたという父親。ラグビーを始めるきっかけであり、「とても尊敬している」存在だ。
母校の東福岡高校ラグビー部の藤田雄一郎監督には精神面を鍛えられ、常にラグビーを勉強する姿勢にも感化された。アンダー世代の日本代表で指導を受けた中竹竜二さんの下ではコーチと選手が一緒にラグビーを作り上げるマインドに触れ、「一歩先のラグビーを見せてもらった」。
そして、法政大学で出会った杉本龍勇先生。経済学部の教授であり、オリンピック出場経験を持つ元陸上選手でフィジカルコーチとしても活動する恩師からは、何事にも100%で臨むことを学んだ。「ラグビーだけやるのはカッコ悪いぞ」。その言葉は社会人になったいまも響いている。
中国電力レッドレグリオンズではラグビーと仕事を両立する日々。仕事が大変なときでも空いた時間には練習に励み、最近では忙しい中でもチームメートと一緒に勉強をして資格を取った。けがが続いたときにはトレーナー陣に支えられつつ、自分でも陸上選手と交流して体の使い方を学んだ。いろんな人と関わり、何事にも全力で取り組んできた。その経験が東川の世界を形成している。
最後に試合に出場したのは、昨年4月の九州KV戦。前半に足を痛めて100%で戦い切れなかった悔しさがあった。「消化不良だったし、チームにも申し訳なかった。それがすごく印象に残っています」
復帰戦の今節は不安もあるが「試合に出られない選手、準備してくれるスタッフの方々の思いを背負って精一杯プレーしたい」と意気込む。
「攻撃で前進するきっかけを作るプレーをまずは意識して、正面の選手とのバトルに勝ちたい」
東川にはこれまで築き上げてきた自分の世界がある。試合のグラウンドに立ったとき、それをどう表現するか。「まずは80分間走ります!」もちろん、100%を出し切るだけだ。
(湊昂大)
試合情報などはこちら⇒https://rrrfc.red/
雄叫びがスタジアムに響いた。劣勢の中でチーム一丸となったトライが決まった瞬間、森山皓太が感情むき出しの声を上げた。中国電力レッドレグリオンズ(以下、中国RR)には、グラウンドで常に全身全霊を捧げる男がいる。
中国RRが本拠地のBalcom BMW Stadiumに九州電力キューデンヴォルテクス(以下、九州KV)を迎えた電力ダービー。試合の立ち上がりから相手の勢いに圧倒され、気づけば31分までに35失点を喫していた。岩戸博和ヘッドコーチが「力の差が出たようなゲーム展開だった」というほど厳しい試合だった。
それでも、34分にスクラムからリズム良くパスをつなぎ、藤井健太郎がボールを持って押し上げる。そこからチーム全員で粘りの攻撃を続け、最後は前半終了間際にモールを押し込んで青木智成のトライにつながった。
その瞬間、森山が雄叫びを上げた。感情を爆発させた大声は、苦しい雰囲気を切り裂くようにスタジアム中に響く。「自分からチームを盛り上げていかないといけないと思っていた」。その情熱はチームを鼓舞し、後半の立て直しへの流れを作った。
持ち味のタックルでも吠えた。68分、溝渕篤司が高く蹴り上げたボールを相手選手がキャッチ。次の瞬間、突っ込んできた森山が「ドスン」という衝突音とともにボールホルダーを押し倒す。観客もどよめく会心の一撃。森山は起き上がりながら、二度叫んだ。
「相手が向かってくる感じとか、相手を倒したときの観客の盛り上がりを感じられて楽しかった。自分が流れを変えてやると思っていたし、流れが変わった瞬間は最高でしたね」
普段は温厚で物腰の柔らかい印象だが、ラグビーになると周りから「リラックスしろ」と言われるほど熱くなる。気持ちいいほどの雄叫びが出るのは、森山にとってグラウンドこそが体力も気力もすべてを出し尽せる場所だからだ。
「ラグビーは唯一自分を表現できる場ですね。僕はもともと人と話すのがすごく苦手だけど、ラグビーだと全身全霊を出せる。僕にとってラグビーは救いの場所なので、このスポーツに出会えて良かったなと思います」
森山はけがの影響で約2カ月ぶりの出場だった。「ラグビーがこんなに楽しいんだって思いながらやっていました」。試合特有の緊迫感の中で、全力で戦い、全力で感情を出す。そんな自分を表現できる日々が再び動き出した。
中国RRは九州KVに21対45で敗れて5連敗となった。次節は今季最後のホストゲームで首位のNTTドコモレッドハリケーンズ大阪を迎える。厳しい戦いは続くが、スタジアムに響く雄叫びがまた中国RRを熱くする。
(湊昂大)
試合情報などはこちら⇒https://rrrfc.red/